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【映画レビュー】『女神の見えざる手』の言葉の意味は?アダムスミスを用いた考察。

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※ネタバレが含まれています。

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邦題「女神の見えざる手」とはどういう意味なのか?その辺の考察を書きました。

目次

1.基本情報

原題:Miss Sloane 

監督:ジョンマッデン

脚本:ジョナサンペレラ

製作:ベンブラウニング/クリスサイキエル/エリアルゼトゥン

製作総指揮:クロードレジェ/ジョナサンヴァンガー/パトリックチュウ/アーロンライダー

撮影:セバスチャンブレンコフ

音楽:マックスリヒター

編集:アレクサンダーバーナー

出演者:ジェシカチャスティン/マークストロング/ググバサロー/アリソンピル/マイケルスタールバーグ/サムウォーターストン/ジョンリスゴー

2.まずは感想

アメリカ社会が抱えるジレンマと現代的な女性像を描いた傑作だと思いました。

 

2-1銃規制の描き方

まず銃規制派をロビー活動という点でこんな描き方をした映画は他にないと感じました。

 

アメリカの超巨大な組合である全米ライフル協会があって、そこには大勢の組合員と莫大な資金があって、大統領選でもトランプの当選に大きく貢献したのは有名な話ですよね。しかも過去には名優チャールトンヘストンが会長だった時もあるし、生きる伝説チャックノリスも名誉会員であったりして、ハリウッドとも切り離せない組織です。銃撃事件が起きるたびに批判を受けても、大統領は支援を受けてるから規制を思い留まり、修正第2条つまり合衆国憲法を盾にしてしまう、手強い団体です。。。

 

それに対して銃規制派の団体は、
最近だと高校などの銃撃事件の被害者やその親族たちの集まりだったりするので、人数的にも資金的にも非常に弱い
しかも正義をいくら説いても、相手は合衆国憲法を持ち出されるため論破できない
という難点があります。

 

でもこの映画はジェシカチャスティン演じるロビイスト、スローンは冷酷で汚いやり方を駆使して銃規制団体を支援していくあたりのアンチヒーロー感がかっこよすぎる!


まわりの仲間を平気で裏切るだけでなく、盗聴や政治家への接待などの規約違反を平気で行なっていくあたりは「ハウスオブカード」に通ずるものがありますよね。
でも「ハウスオブカード」は完全な悪役ですが今作はアンチヒーローです、そこが違うから見ていてスカッとするカタルシスがりました。 

 

2-2.アメリカが抱えるジレンマ

物語の切り口は新しくて、ロビー活動がメインなので難しい雰囲気がありますが、ちゃんとわかりやすい描写もあるのが良かったです。

 

それが規制派のロビー活動をしていてるメンバーの中に銃撃事件に巻き込まれた事がある女性がいて、彼女が銃を持った男に襲われそうになるんです。
そこで彼女を助けたのが”銃を持っていた別の男性”なんです。
こうなってしまうと、
“彼女は銃を持っていれば身を守れた”
という論調が出てしまうんですよ。

 

この少し難解な空気の中に、1つわかりやすい描写があることで、きっちり銃反対をしているあたりも良かったです。

 

2-3.ミススローンという女性。

しかも彼女の描き方が現代的だと思うのが、
パーティで饒舌に話して活動をする→疲れたらトイレで薬をキメる→再びパーティに戻る
これを繰り返した後家に戻ると男娼がいてそこで息抜きをする。
これが彼女の基本ルーティンとして描かれるのです。

 

これまでお金に取り憑かれた女と言われると、
ブルージャスミン』のケイトブランシェットみたいに、金持ちの旦那を持ってしまった事で金銭感覚が狂ってしまった女性のイメージがたりました。が、今作は『ウルフオブウォールストリート』のレオナルドディカプリオだったり、『ゼアウィルビーブラッド』のダニエル・デイ=ルイスだったりします。
この描かれ方も新しいというより、そう描く事が普通とされる現代らしさが良いですよね。

 こっちじゃなくて↓

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こっちたちの方です↓

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さらに驚いたのは男娼を雇うところ。
72年の映画『メカニック』でチャールズブロンソン演じる主人公は殺しの仕事を終えると、
大豪邸でレコードでクラシックを聴きながら年代物のワインを飲み、高級コールガールを呼ぶという描写がめちゃめちゃかっこいいのですが、これまでならこれが女性だったらかっこ良いとは思われませんよね。性に対して欲望のままに生きてるみたいな批判を浴びかねません。

 

こんな感じ

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このような点も女性がそうであってはならないなんて事はないし、
今作はちゃんとディカプリオばりに、ダニエル・デイ=ルイスばりに、チャールズブロンソンばりにかっこよく描くことに成功してるんですよ!

なのにアカデミー賞に全然引っかからないのが残念です。。。
やっぱり銃規制というテーマが障壁になったんですかね。。

 

2-4.ラスト

そしてラストはもちろん、脚本的などんでん返しも素晴らしいのです、が!
仲間を裏切って道具にしてた彼女が、自分が懲役刑になることを引き換えにすることど巨大な悪と立ち向かうというところにグッときました。


これまでまわりの仲間も全て道具として扱うキャラが、“自分を犠牲“にしてまでも目的を達成しようとする事で彼女がアンチヒーローなのだと観るものに受け入れさせる巧い演出でしたね。

 

 

さぁここで本題です!!

 

3.タイトルの意味するものとは。

原題はミス スローンなのでまぁ彼女の名前なので、この映画はスローンという1人の女性の物語であるという事がわかります。

 

では邦題の『女神の見えざる手』とはどういう意味なのでしょうか?

 

3-1.神の見えざる手とは

女神ではなく、「神の見えざる手」という言葉を知っていますか?というより覚えていますか?


大学で経済を教わってなくても、高校の政治経済の授業で習う言葉ですよね。
これは経済学の父、古典派のアダムスミス(1723~1790)の著書『諸国民の富(国富論)』に登場する有名な言葉です。

 

「神の見えざる手」とは“需要と供給の関係によって価格が自動的に決まる市場原理”の事です。

 これがアダムスミス

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3-2.もっとわかりやすく!

最近だとニンテンドースイッチが発売しましたよね。
店頭で売り切れ続出でネットでは定価3万2378円の倍以上の値段で取引されました。

これはつまり、
消費者の中でニンテンドースイッチを手に入れる事で得られる満足度のためなら、定価の倍を出してもいい!」
という超過需要(ほしいと思っている需要が、世に出回ってる供給をうわまわってる)の時は売る側も価格を上げます

 

ですが今はどうでしょうか?


販売当初は定価の倍以上もあったのに今は定価きら378円引かれた1%オフの、3万2000円で売られています。

つまり現在は価格が下がっています

 

これは販売から時間がたってある程度欲しい人が手に入れて満足してしまったため、世の中では欲しいと思う需要よりも、出回っている供給量の方が多いということです。
これを超過供給といいます。
在庫に余りがあるってことですね。

 

このままの価格では買ってくれないので、価格を下げて2万3000円で売ります。
そうすると「2万3000円なら欲しい!」という人が買うようになります。

 

こうやって
1個◯◯円なら1つ欲しい!
1個◯◯円なら無駄なく売れる!

というバランスがとれた均衡価格に落ち着くように世の中はできています。

 

つまり誰かが調整しているわけではなく、
消費者は自分の満足度を満たすために動いて、生産者も利潤を上げるために動く。
それぞれが自分のために動いているのに、あたかも神が調整してるかのように市場は均衡する。という事です。

 

まぁだからこそアダムスミスは政府が市場に介入する重商主義保護貿易を否定したとかも習ったのですが、映画とは関係ないのでやめます。笑
(説明から逃げたわけじゃないよ!)

 

3-3.映画とアダムスミスの関連

じゃあ今作のタイトルがなぜ「女神の見えざる手」なのか。


たぶんラストの展開についてだと思います。

主人公のスローンは銃規制法案を通そうとか活動していました。例えそれが違法でも規約違反でも倫理的にNGでも目的を達成するために動いたのです。

敵となる銃推進派も、彼女を陥れるために彼女の過去の不正をみつけ、公聴会の議長も圧力をかけて自分の有利な人にしました。

 

敵側は誰かに調整されてるわけでなく、彼女に勝つためにそのように行動したのです。
でもそもそも彼女は意図的に不正を残し敵側にも内通者がいたわけです。

アダムスミスのいう「神の見えざる手」のように、「彼女という女神の見えざる手が調整をしていたという事なのです。

自己中に動いたのに、気がついたら彼女の有利なようになった。ということを意味しているのだと思います。

 

4.最後に

邦題って基本、原題のままだとわかりにくいから作られますよね。
それに対して本作は原題の方がシンプルなのに、あえて難しい邦題をつけているのが興味深いですよね。

 

というわけで今作のとっても良いレビューがネットに沢山ある一方で、原題について触れてるそれが意外と少ないので考察してみました。

 

読んで頂きありがとうございました!

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